2022.10.13 share

 3年ぶりにフランス・カンヌで現地開催された「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」。過去最多となる29の表彰部門が設けられ、87カ国・地域から寄せられたエントリー作品が受賞作に与えられるライオン像を競った。映像作品を審査する「フィルム」部門、デジタルを活用した「デジタルクラフト」部門、今年新設の企業向け事例を扱う「クリエイティブ・BtoB」部門など、多様な視点から審査、表彰された。


The Unfiltered History Tour
VICE Media

 「ラジオ&オーディオ」など複数の部門でグランプリを獲得したのは、米国に本拠を置くデジタルメディア、VICE Mediaのキャンペーン。画像共有アプリ「インスタグラム」の拡張現実(AR)機能を使って、大英博物館で視聴できる音声解説を非公式に提供した。

 同博物館には世界各地から略奪された多くの展示物が収蔵されているといわれる。例えばモアイ像にスマートフォンをかざすと、同像で有名なラパ・ヌイ(イースター島)の解説者の声で「大切なこの像が何千マイルも離れた博物館に展示されています」などと説明が流れる。

 SNS(交流サイト)でも拡散し、動画投稿アプリ「TikTok」で200万回の視聴数を獲得したという。


BACKUP UKRAINE
Polycam×ユネスコ

 「デジタルクラフト」部門のグランプリは、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が3次元(3D)スキャナーを開発する米国のPolycamと共同で展開したプロジェクトである「BACKUP UKRAINE」。ロシアによる侵攻を受け街が破壊されるなか、「ウクライナ人の2200万のスマートフォンが3Dスキャナーに」とうたい、一般市民がスマホで市中のモニュメントや歴史的な建物などをスキャンし、クラウドにアップロードする。アップロードされた3Dの画像データは誰でも閲覧することができる。

 このほか「メディア」部門のゴールド、「ブランド・エクスペリエンス&アクティベーション」部門のシルバーなどを受賞した。


SUPER. HUMAN.
Channel4

 もっとも注目を集めるフィルム部門グランプリに輝いたのは、東京パラリンピックに向けて英放送局のChannel 4が制作した映像作品「SUPER. HUMAN.」だった。

 同放送局はこれまでもパラリンピック開催に合わせ、「スーパーヒューマン」という言葉をタイトルに使って選手を描く映像シリーズを発表し、高い評価を得てきた。今回は選手の「格好良くない」ような場面にもスポットライトを当て、コミカルなBGMやアニメーションを駆使して表現した。英国で映像を視聴した77%の人が「障害について考え直すきっかけとなった」と答えたという。

 フィルム部門では、米アップルの作品「ESCAPE FROM THE OFFICE」もグランプリを獲得した。


Pinatex
Dole Sunshine Company+Ananas Anam

 パイナップルの葉でできたバッグやスニーカー。パイナップル生産の世界大手、ドールは英Ananas Anamと、廃棄されるパイナップルの葉の繊維からファッション向けのレザーを開発。事業の在り方が変わるような独創的な取り組みに与えられる「クリエイティブ・ビジネス・トランスフォーメーション」部門でグランプリを獲得、「クリエイティブ・BtoB」部門でもシルバーを受賞した。

 1トンのパイナップルが栽培されるごとに3トンの葉が廃棄され、放置して腐ると二酸化炭素よりも温暖化に有害なメタンが発生する。開発されたレザーは、ナイキやヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)など80カ国以上の200のブランドで使用されているという。


Real Tone
グーグル

 これまでのカメラは黒人の肌のトーンが正しく写らなかった――。米グーグルはスマートフォン「ピクセル6」を改良し、どのような肌の色もありのままに写真に撮れる技術を開発。「モバイル」部門でグランプリを獲得した。

 自社チームと写真家などの専門家らが連携し、幅広い照明条件でピクセル6のカメラなどをテストして開発を進めた。取り組みは米プロフットボールNFLの王者決定戦スーパーボウルのCMなどで広く発信した。

 同部門の審査員を務めたADKマーケティング・ソリューションズの大塚智氏は、「テクノロジーに良い悪いはないといわれるが、バイアスが潜みうることを示した」と指摘する。


Data Tienda
WeCapital

 女性の起業を支援するメキシコ企業、WeCapitalが低所得の女性向けに開発したサービスである「Data Tienda」。スマートフォンの簡単な操作で信用履歴のデータを作成し、教育や起業のために銀行から融資を受けられるようにした。ジェンダー問題をテーマとする「グラス」部門と、優れたデータ活用を表彰する「クリエイティブ・データ」部門でグランプリとなった。

 メキシコでは低所得の女性の多くは銀行の支払い履歴がなく、支払いに関する行動を検証できず融資を受けられないという。サービス利用者の女性が地元商店などで信用払いをした記録を対話アプリ「ワッツアップ」で収集し、銀行がアクセスできるデータベースを構築した。


日本勢は7部門8作品で受賞

★エントリーは540件
 日本からエントリーされた作品総数は540件だった。グランプリはなかったもののゴールドライオン、シルバーライオン、ブロンズライオンを受賞した作品が7部門で8作品あった。このほか受賞の選考対象となる「ショートリスト」に掲載された作品が約15作品あった。


★吉田秀雄記念事業財団が複数獲得
 日本の作品でもっとも目立ったのが吉田秀雄記念事業財団/アドミュージアム東京の「BEAUTIFUL MUTATIONS」だ。インダストリークラフト部門でゴールドとシルバーをダブル受賞し、デザイン部門でブロンズを獲得。2部門で合計3つ受賞した。日本で唯一の広告に関する博物館アドミュージアム東京の「D&AD AWARDS 2021 EXHIBITION IN JAPAN」についてクリエーティビティーの高さが評価されたようだ。


★シルバーやブロンズの表彰も
 日本財団の「THE TOKYO TOILET」はデザイン部門で、スポティファイ・ジャパンの「SPOTIFY CODE『SOUND TOUR/ SOUND TOUR-SAKURA/ SOUND TOUR-LANTERN』」はインダストリークラフト部門で、グラクソ・スミスクライン・コンシューマー・ヘルスケア・ジャパンの「アクアフレッシュ占い」はソーシャル&インフルエンサー部門で、伝統デザイン工房の「大好物醤油」はクリエイティブ・コマース部門でそれぞれシルバーを獲得した。

 牛乳石鹸共進社の企業広告「穴があったら」はフィルム部門、大塚製薬のポカリスエットの広告「でも君が見えた」はフィルムクラフト部門、ソニー・インタラクティブエンタテインメントのPLAYSTATION広告「PLAY HAS NO LIMITS FEAT. KENSHI YONEZU」はエンターテインメント・フォー・ミュージック部門でブロンズを獲得した。


★審査員、日本からは9人
 世界各国で選出された審査員290人のうち日本からは9人だった。これとは別に日本の6人がショートリスト審査員となった。