2020.10.5 share

4回にわたるレポートの最終回となる「誰にでも分かるLIONS Liveレポート④」をお届けします。カンヌライオンズの魅力の一つは、広告ビジネスの本質に触れることができること。私にとっての本質を言語化すると、“変化への積極的な対応”と“変わらぬハチャメチャさ”となります。オンラインで開催されたLIONS Liveにおいても、この2つの要素は充分に感じられました。今回はこの視点から、内容の幾つかをご紹介していきましょう。(※ここでレポートしているLIONS Liveは2020年6月22日~26日に配信されましたが、10月には2回目のLIONS Liveが配信されると発表されました)。

【カンヌライオンズの魅力は、「この仕事、悪くないじゃん!」と思えること】

初めてカンヌライオンズに参加したのは2002年のこと。40歳を過ぎて、正直言って少し“広告ビジネスへの熱が冷めていた”ように思います。“何か面白いことをしてやろう!”といった素朴な野心が消えかかり、“業務を滞りなく進めること”に関心がいき、部下が持って来る案にも「こんなの、通らないよ」とブレーキをかけていました。
しかし、カンヌライオンズに参加して帰って来た私は、180度変わっていました。「この仕事、やっぱり悪くないじゃん!」と感じ、熱を取り戻したのです。部下に対しても、「もっと面白いものにチャレンジしようよ」とけしかけるようになりました。
ではこの仕事に対して“いいね!”と思えるところは、どんなところでしょうか?いろいろあると思うのですが、ここでは2つのポイントを取り上げたいと思います。

【“変化への積極的な対応”と“変わらぬハチャメチャさ”が、2つの大きな魅力】

私が思うには、広告業界が持つ本質的な魅力は、“変化への積極的な対応”と“変わらぬハチャメチャさ”です。
広告界は多くの激変をくぐり抜けてきました。数十年前には、新聞広告からテレビCMビジネスへの大変化に対応しました。21世紀初頭には、デジタル化とソーシャル化の浸透という大変化が起こり「広告業界も終わった」といった記事が見られる中、みごとにサバイブしました。デジタルとソーシャルを活用した広告コミュニケーションを、ビジネスとして確立したのです。カンヌライオンズに行くと、こうした気概を肌で感じます。多くのセミナーで“Embrace the Change(変化に積極的に対応しよう)”というフレーズが頻繁に聞かれます。変化こそが我々の真骨頂だと、多くの広告人が考えているのが感じられます。
一方で、“ハチャメチャさ”も重要視されます。広告人は“軽み”を重んじます。ソーシャルグッドや世の中に良いことを語りながらも、どこかで、お茶目で良い意味での軽みを持つことを好みます。毎年必ずと言っていいほど“ハチャメチャ”系の受賞作が見られることに、私はなんだかホッとしています。

 【変化への積極的な対応の例、eコマースを取り上げたWARCのセミナー】

今回のLIONS Liveで変化への積極的な対応を強く感じさせたKey Noteを一つ紹介していきたいと思います。WARCというカンヌライオンズと共同して様々な調査を行っている会社による「eコマース時代の効果」と題したセミナーです。
皆さんはD to Cという言い方をご存じでしょうか。Direct to Consumerのことで、概略としてはeコマ―ス(ネット上での購買)のことですが、企業側からすると”流通を間に挟まないビジネス“というニュアンスで、こう呼ばれることが日本でも急速に増えています。このセミナーでもDirect to Consumerという言い方も何度か聞かれましたし、そういう姿勢で構成されていたと思います。
従来のマーケティングでは、基本となる4Pの中にPlace(流通)が含まれていることからも、店舗で人が買うことが想定されていました。広告等で買いたいと思ってもらい、お店で買ってもらうのがスタンダードでした。ところが、デジタルが進化した今ではeコマースで購入する人が増大し、コロナ禍でその傾向に拍車がかかっています。Amazonなどのプラットフォームはもちろん、企業独自のeコマースサイトも大いに盛んになっています
マーケティングや広告コミュニケーション概念の一大転換ともいえるこの事態を正面から取り上げて、様々な企業のマーケターも登場し、知見をとりまとめていました。一つだけ紹介すると、eコマースの時代こそ、ブランドのトータルな体験が重要になるという提案。それは、買って、配送されて、箱を開けるところまでのプロセスで、そこまで強く意識してマーケティングを行おう、と述べられていました。

 【変わらぬハチャメチャさを体現、Burger KingのLions Shorts】

さて、今回のLIONS Liveの中で、私が最も“変わらぬハチャメチャさ”を感じたのは、Burger KingによるBehind The Mask : The Inside Story of the Burger Kingでした。各社が作るイメージビデオのような5分程度の短い動画を集めたLions Shortsに分類されていますが、この動画は30分の長さに及んでいます。10年以上前の「王様の仮面(Mask)をかぶった不思議なキャラクターが様々なところに現れる」という大人気キャンペーンの制作秘話を、当時の担当者が語るという内容になっています。
このキャンペーンはCP+B(クリスピン・ポーター・ボガスキー)というマイアミの小さな広告代理店が担当しました。当時クリエイティブ・ディレクターを務めたロブ・ライリーを中心に、コピーライターやアートディレクターや営業達、またクライント側からは当時のCMOも登場し、体験談を語り尽くしています。そもそも、その王様キャラクター自体がかなり異様なのですが、それが、ニューヨークの街中に登場したり、アメリカンフットボールの会場に現れたり、はたまたコンピュータ・ゲーム内にまで登場し、いわばそのハチャメチャさが大受けした施策でした。話を聞いているとその制作過程も相当に突飛で、もちろん真剣ではあるのだけれど、遊び心に溢れた働きぶりで達成されたものであるのがよくわかる動画でした。
しかも、この動画を取りまとめたのが、当該キャンペーンには関わっていない、バーガーキング現CMOのフェルナンド・マチャードであることも、大変に興味深い事実です。バーガーキングは近年でも、広告コミュニケーション施策で大ヒットを飛ばし続けていますが、常識に捉われないこうした態度こそが、大きな成功を生んでいる一つの要素だと感じて、嬉しくなりました。

※さて、6月に配信されたLIONS Liveの4回にわたるレポートは今回が最後です。10月にも新たなLIONS Liveの配信が予定されているので、その内容も再びレポートしようと思います。どうぞ、お楽しみに!