カンヌライオンズの“そもそも”論からを皆さんにお伝えしてきた連載の第12回をお届けする。今回でいったんは最終回なのだが、次回、会場以外についてお伝えする“番外編”も予定している。
(多摩美術大学美術学部教授 佐藤 達郎)
広告主側も、もっともっと参加するべし! できれば登壇も…
カンヌライオンズは、古くは広告会社クリエイティブ部門の人間の祭典だった。しかし21世紀に入り、特にイベント名から“広告”というワードが無くなって“クリエイティビティ・フェスティバル”となった2011年あたりからは、PR系、ウェブ系、SNS系、イベント系、戦略プランニング系など、クリエイティブ以外の部門の人も多く見かけるようになり、またそういった分野を専門とする会社からの参加者も増加した。さらには、広告主/事業会社側の人とおぼしき日本人の姿も、そんなに多くはないが見られるようになってきた。
当初は正直、居心地が悪そうにしている人達もいた。例えばある人達は4人で来ていて、会場内では逆に目立ってしまう丸の内っぽいスーツで過ごし、服装や、まとうオーラが周囲に溶け込んでいなかった。なんだか不思議な緊張感を放っていたのを、よく覚えている。もう10年以上前の話だ。
しかし、以前も記したと思うが、欧米系の広告主は、ユニリーバやP&GのCMOを筆頭に、たくさん登壇しているし、そうしたセミナーを広告会社や企画会社の人達も聞きたがる。広告主は今や、完全にカンヌライオンズの主役達の1人と言っていい。英語の問題もあってか、日本の事業会社からの登壇者はほとんどいないのが現状だが、筆者は“企業からの発信”という意味でも、ぜひ登壇してほしいと考えている。
応募企業の担当者だったら、現地での日々は、もうドキドキ。
自分が担当した案件や自社の施策を応募している場合は、これはもうドキドキだろう。会場には、毎日発行されるLions Daily Newsという冊子がおいてあって、誰でも好きに持っていける。毎日、部門ごとに順次ショートリストが発表されていく。ショートリストは入賞に当たるもので、その中から銅賞以上が選ばれるため、そこに入っていないと、より高次の賞は期待できない。入っていれば、金賞やグランプリ受賞の可能性だってあり得るのだ!(今はもうオンラインでも同時に発表されていきます)
手元にあったLions Daily News 2019年版
金賞かグランプリを受賞すると、贈賞式で登壇することになる。これは、華やかで誇らしい一瞬だ。昔はタキシードを着ていけと言われて、実際に現地で貸衣装を借りた人もいるらしいが、今はジャケットを羽織るくらいで問題ない。登壇の連絡が来るのは、筆者の経験上、2日前くらいだと思う。審査は現地でほぼ同時進行で行われているので、どうしてもそうなる。ヨーロッパの人だと、連絡があったので急遽やって来た、という人もいる。日本からだとそうもいかないので、広告会社で言えば同じ会社の人とか、なんらかの関係者が登壇することになる。
贈賞式で登壇する受賞者
真ん中でトロフィーを持っているのは、広告主側の人
こちらも、贈賞式で登壇した受賞者
多くのカメラマンによって撮影される
“現地でも審査員にアピールする機会はあるのか?”という質問も受けたことがあるが、それは“無い”と考えたほうがいい。現地で審査員は、ほぼ缶詰状態である。可能性があるとしたら、日本からの審査員に対して事前に日本で、周辺情報を提供する機会を探ることくらいだろう。それにしても、応援してくれ!と一方的に要求することは無理だ。その応募作がディスカッションステージ(銅賞以上)まで行った時に、多少は役に立ててもらえる周辺情報を聞いておいてもらえるとありがたい、その程度のことになるだろう。
では、広告主側の担当者は、現地でどう過ごせば良いのか?
広告主側の担当者であれ、広告会社や企画会社の人達と、現地での過ごし方は基本的に変わらない。前回の「ビギナーのためのカンヌの過ごし方・その1」を参考にしてほしい。
ただ、極力主体的に動くことをお勧めする。昔だと取引先から“オンブにダッコ”という感覚でお世話されるケースが多かったように思うが、もはやそんな時代でもないだろう。自分で勉強して準備して計画して、ご自身にとって価値のある日々にしたいところだ。
以下、幾つかヒントになりそうなことを、ランダムに記しておく。
日本の“広告主側参加者同士”の交流を深めよう。今は日本国内でも“マーケター同士”の付き合いは、様々なカンファレンス等を通じてすでに活発に行われてもいるかと思うが、カンヌはより仲を深める格好の機会になる。
広告会社や企画会社、コンサル、ネット系プラットフォーム等の優秀な人材、あるいはフリーのプランナーなども集まっているので、そうした人達とも積極的に交流しよう。実際にカンヌで知り合った人とその後仕事をして、受賞に至ったケースなども耳にする。
あなたの所属する企業がグローバルに展開している企業であれば、カンヌを“集合場所”として活用しよう。欧米各国やその他の地域の人達に声をかけて、“カンヌ・ミーティング”をもくろむのだ。実際グローバル企業のトップ層達は、カンヌに集まって、重要なミーティングを持ったりしている。
さらに、英語がある程度使える人は、海外の広告主側の人に話しかけて名刺交換などをすることにもチャレンジしてみよう。著名なCMOも複数のセミナーに登壇しており、その中にはビーチサイドで行われる比較的カジュアルな雰囲気のものもある。もちろん相手側の事情やキャラクターにもよるのだが、英文記事でしか読んだことのない著名CMOと話すチャンスだって、持ち得る。そうした可能性は、カンヌ以外の場所に比べると、圧倒的に高い。
毎年ビーチサイドで開催されるCMO対談
というわけで、広告主側の方が参加する意義は十分にあると思うし、ぜひ参加する方が増えてほしいものだ。
この連載では十回以上にわたって、「カンヌライオンズ」の歴史と現状について解きほぐしてきた。今回でいったんは終了とさせていただくが、次回は会場以外について記す“番外篇”もご用意しているので、お楽しみに!
南仏の青い空も、もちろん魅力的!