Q1審査を通して得た気づき
時代の流れに対する「反動力」としてのクリエイティビティに注目しました。
まずひとつは、テクノロジーへの反動です。生成AIや拡張現実など、さまざまな表現を可能にし、新しい体験を生み出す技術が次々と登場しています。デザインやクラフトの審査でも、こうした流れが反映されるだろうと想像していました。ところが、現実は真逆。むしろ、技術をあえて捨てることで人間性を取り戻す試みに審査員たちは心を奪われました。例えば、月明かりだけで撮影されたグラフィック。雨で音を奏でる屋外広告。イノベーションよりも「エモーション」が大切であることを思い出させてくれました。
もうひとつは、グローバリズムに対する反動です。世界的に通用する普遍的インサイトを捉えたものよりも、地域固有の課題に向き合った「ならでは」の解決や発想に注目が集まりました。美しい花だけではなく、地中に隠れた根まで丁寧に見る審査員の傾向は、Spikes Asiaというアジアに根ざしたアワードの美点だと思います。
Q2審査の中で印象に残った施策作品名とその印象について。
①Paper Organs
中華圏には亡くなったとき人体が損傷していると天国にはいけない、という宗教的な考え方があり、それが臓器移植の妨げになっていました。Paper Organは臓器の代替として台湾の病院で開発され、移植をめぐる遺族との会話のために用いられています。科学の象徴である病院が、宗教的デザインを必要としたという点が興味深い事例です。
②Megh Santoor / TAJ MAHAL
インドの伝統的な楽器を屋外広告で再現し、雨で奏でるという作品。雨音と音色のシンフォニーがあまりに美しく、ゆっくり紅茶を楽しみたくなります。効率追求型の広告で街が溢れる中、情報より情緒を伝える広告は今こそ有効なのかもしれません。
③SHIFT 20 INITIATIVE
オーストラリアではおよそ20%の人が何かしらの障害を抱えている。にもかかわらず、広告にはほとんど健常者しか出てこない。20%の存在を可視化するために、国内の有名なCMを障害者の役者を起用して作りかえたプロジェクト。アイデアはまっすぐですが、多くの大企業を巻き込んで実現したのが素晴らしい。発言より行動が大切であることを示す事例です。
*デザイン部門に加えて担当したGrand Prix for Goodの受賞作です