Q1審査を通して得た気づき
今年のDubai Lynxの審査員は他の部門も含め基本中東と北アフリカ以外の世界中の国から集められたと聞きました。Cannes Lionsのアジアエリアの賞であるSpikesでは日本を含めたアジア圏の審査員が多数居る印象ですが、ここがDubai Lynxでは大きく違いました。
SpikesやCannes Lionsでは、自国で出品されている作品の背景の説明をして、如何にその広告が素晴らしいのか、賞に値するのか、という日本を代表して来ている審査員としての”仕事”があるのですがそれが全くなく純粋にどれがどの賞に値するのかを審査員長含め7名の世界中から集められた審査員で話し合いを2日間フルで行ったことはとても有意義な時間でした。ただこのMENA地域の文化的な背景(cultural context)が分からないので、事前審査でCase Study Videoをきちんと見てある程度の背景は理解した上でcultural contextを説明して下さる方が1日目の審査にはずっと同席してくれたのは大きな助けとなりました。
審査中は石井がアメリカ留学時のフィルムスクール時代に感じた、「どの映画がみんな好き?」「黒澤のさ、羅生門の映画のパンフォーカスがさー、とか小津の東京物語のあの構図いいよね」とか、純粋に映画や映像好きが集まって話しているような瞬間が何度もありそれはとても有意義で大切な時間でした。
Q2審査の中で印象に残った施策作品名とその印象について。
①Rumble
2024 Dubai LynxのFilm CraftとFilmのグランプリ作品。
今年のDubai Lynxを象徴する圧倒的なクオリティの映像広告。
事前審査時から評価が高く、これがFilm Craftのグランプリ候補であることは間違いないかなと思っていました。
ただDubai Lynxは地域賞なので、今年のCannes Lionsでも評価されるようなbig budgetであり、そしてACCENTURE SONGとDROGA5がエージェンシーでPark Picturesがプロダクションであり、Seb Edwardsが監督であるこの映像が地域賞であるDubai LynxのFilm Craftのグランプリで良いのかという石井が感じた疑問は他の審査員に伝え5分程度議論をした上でこれを上回るグランプリ候補も無いということで決定。
Directionも素晴らしいし、CinematographyもUse of Licensed / Adapted Musicも素晴らしいのですが、他の審査員の皆さんと意見が一致したのは、Sound Designにグランプリを出そうということでした。
②WEGO
2024 Dubai LynxのFilm Craft、Castingのカテゴリーでゴールド受賞。
昨年のカンヌでも感じたことですが、お笑い系の作品がここ数年少なめで、その傾向は今回のDubai Lynxでもあり、数少ない笑える広告映像の一つでした。
SNOWMANの声はプロのナレーターのオーディションをして探したそうですが、なかなか良い声が見つからず、AIで生成した声を使用したそうです。そこを評価したということよりもこのSNOWMANとドライバーと助手席の2人のキャスティングを全体的に評価し、元々ブロンズの候補の1つでしかなかったこのWEGOを審査員の皆さんと熱い協議をした上で、ゴールドにまで押し上げることができました。
③Fear
2024 Dubai LynxのFilm Craft、Achievement in Productionのカテゴリーでショートリスト。
Film部門ではシルバー受賞。この映像作品は当初ショートリストには入っていなく、ショートリストの議論をする際にMENA地域の文化的な背景(cultural context)を再度確認した上で、ショートリストに入れることが出来た思い出深い映像広告の1つとなりました。映像にあるように90%以上のエジプトの女性が夜道を歩くと何かしらのセクハラ行為を経験したことがある、という文化的な背景が分からないとこの映像の評価、特にクラフト領域での評価は難しく、Achievement in Productionのカテゴリーで評価することとしました。