ストーリーテリング
サピエンスからAmazonへ:社会もマーケティングも物語でできている
Amazon
Amazonによるセミナーでは、『サピエンス全史』『ホモ・デウス』などの著作で知られる歴史家、ユヴァル・ノア・ハラリ氏=写真右=をゲストに迎え、「社会とブランドを変革する物語(ストーリーテリング)」についてのトークが行われた。聞き手はAmazonのマーケティングとPrime部門を統括するニール・リンジー氏が務めた=写真左。
セッションの冒頭、「ブランディングやマーケティングはあなたの研究領域からかけ離れているように思えるが、そのテーマで語ることに抵抗感は?」と問われたハラリ氏は、「国家や宗教、神、貨幣もブランドであると私は確信している。人類の歴史を通じて社会は、物語が生み出すブランドによって形成されてきた」と応じた。
ハラル氏は、ホモサピエンスを地球の強者にしたのは「(他者と)協働する能力」と語り、協働は“物語る”ことから可能になると強調した。「預言者や皇帝たちはいつの時代も説得力のある物語を求めてきた。真実味のある物語を紡ぐために多大な努力を重ねたのだ」(ハラル氏)。
リンジー氏が「史上最も成功した物語とは?」と問うと、ハラル氏は「それは貨幣だ」と即答した。「その物語はだれもが信じているから。たとえば米ドルはフィクションに過ぎない。にもかかわらず、世界中の人々がその価値を信じている。米ドルは物語が生み出す信頼によって成立している」。
セッションの終盤「マーケターやブランドには役割があると思う。業界へのメッセージがほしい」と求められたハラル氏は、次のように回答。
「最も重要なのは、結局のところブランドは、架空の物語に過ぎないということを肝に銘じること。ブランドは苦しむこともなければ、幸福になる必要もない。一方で人間は苦しみ、幸福を求める。ブランドに奉仕することがマーケターの仕事だが、それは人類の幸福のために存在するということを忘れないでほしい」
“バズる”
20億人の視聴者が動画でシェアするものは?
YouTube
YouTubeによるキーノートには、同サービスのトレンドマネージャー(Head of Culture and Trends)を務めるケヴィン・アロッカ氏が出演。この1年で話題になったYouTube動画とその界隈のプロフェッショナルたちのコメントも紹介しながら、“バズる”ブランド動画のヒントを3つのキーワードで解説した。
1つめのキーワードは「リアルタイム性(immediacy)」。英国の調査会社イプソス・モリによるリサーチ(18歳から44歳対象)では、この1年に85%の人がライブストリーム動画を視聴したことがあると回答している。
人気K-POPグループ・BTSによる新曲「バター」の予告編は、イラストで描かれたハート型のバターが溶けていく様子を映し続けるだけの60分アニメで=写真、メンバーは登場せず曲も流れないが、約230万人がリアルタイムで視聴。新曲発表への期待の中、何が起こるか分からない時間を、世界のだれかと同時シェアしている状況を視聴者は楽しんでいたという。
キーワードの2つめは異なる要素を関連づけること(relatability)。現在の動画トレンドはありきたりの関連づけではなく、日常生活と公的生活の壁を破壊するような「ラディカルな関連づけ」「究極の真実味」のあるコンテンツが支持されるとアロッカ氏は指摘する。
その代表的ヒット事例として、アロッカ氏は“猫弁護士”を挙げた。コロナ禍の中でのオンライン裁判に臨んだ弁護士が、ZOOMのフィルターの外し方がわからず、猫の姿(アバター)のまま出廷した珍事がニュースになったものだ。「弁護士が猫」という意外性と、「日常の中で起こりそう」という真実味がこの動画にはある。
キーワードの3つめは没入感(immersiveness)。世界的ヒットゲーム「マインクラフト」の人気実況のような“没入感のある物語”は、まさに「ロールプレイングドラマ」だとアロッカ氏。ネット動画はいまやユビキタスに楽しめるコンテンツであり、私たちはビデオを消費するだけでなくクリエイトすることもでき、多様なつながりを生み出せるツールになっていると強調した。
企業成長
成長のトリプルプレイ:創造性とデータ分析、そしてパーパス
マッキンゼー
世界はこの100日間で、過去10年以上の大きな変化を遂げた。これまで享受してきたノーマルライフはすでに存在しない。削減されたリソース、未知のシナリオ、社会的公平性と安全性の優先。企業のCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)たちは、「未来はどうなる?」と問い続けている。
このセミナーでは、マッキンゼーの世界3カ国のパートナー、マーケティング担当者および、セールスフォース、マース、ペルノ・リカールのリーダー層が、未来の成長をテーマに持論を語った。
共通見解として導き出せるのは、CMOたちが企業の成長アジェンダを主導する上で重要な作業は、創造性とデータ分析(サイエンス)、パーパスを統合すること。それこそが「成長のトリプルプレイ」だという。
ペルノ・リカールのCEO、アン・ムカージー氏=写真=は、3つの要素の中でも「パーパス」の重要性は増していると強調した。「パーパスは我々の企業行動の心臓にあるもの。なぜか? 顧客であれ従業員であれ、人々は無目的にブランドを買っているわけでもないし、働いているわけでもないから」。
その発言に続けてセールスフォースのブライアン・ソリス氏(グローバル・イノベーション・エバンジェリスト)はこう述べた。「パーパスというのは、ビジネスが提供する価値だけを意味しているわけではない。そこには同時に顧客サイドが提供する価値も含まれている。そのことを理解すべきだ」
一方、マースのCMO、ジェーン・ウェイクリー氏は、データ分析についてこう語る。「このパンデミックの渦中で、我々は科学の進化を実感した。分析手法が時代遅れになっていて、顧客とのつながりを把握できないのなら、(その企業は)手遅れになるだろう」
各業界のリーディングカンパニーは、顧客のロイヤルティを育みながら、株主価値を高め、持続可能な成長を生み出す方向に舵を切っている。マッキンゼーによれば、それこそが“ニューノーマル”な時代の企業経営である。