2017年カンヌライオンズ ブランデッドエンターテイメント部門の審査員をつとめ、本書の共著者であり、監修・翻訳をつとめたSTORIESの鈴木智也氏のコラムをお届けします。
ブランデッドエンターテイメントが2020年の今、重要な理由。
世界中でネットフリックスなどの有料の動画配信サービスが加入者を伸ばしているのは、コンテンツの質と量もさることながら、広告で遮られないという特徴も大きな要因ではないでしょうか。ドラマを見ていたら、ブツっと止まり、本編と関係のないコマーシャルが3分流れ、またドラマに戻る。エンターテイメントを楽しみたいユーザー体験として、果たして優れていると言えるでしょうか。
何よりもブランド・広告産業の私たちにとって脅威的な問題は広告無しサービスでコンテンツを例えば何時間もイッキ見した生活者は、その間広告に一切触れていないという事実です。広告の有無を含めて、ドラマ・バラエティー・映画・音楽・舞台・ライブ・テーマパーク・ニュース・動画・写真、どのコンテンツを、どのプラットフォームからどのタイミングで視聴・体験するのかを決めるのは観客なのです。
ブランド、広告のコミュニケーションの競争相手は、もはや競合ブランドだけではなく生活者の前にある、あらゆる情報・コンテンツだと言える状況です。もちろん広告ありのプラットフォームにも依然として大きな需要があり続けるとは思います。しかし観客の時間は限られています。観客の時間を奪い合う戦い、つまり「観客時間戦争」の時代が来ているのです。
ブランデッドエンターテイメント 「お金を払ってでも見たい広告」
この時間獲得競争時代にブランドが観客の時間をいただくための、今求められている手法論が「ブランデッドエンターテイメント」です。観客が貴重な時間を使ってエンターテイメント性のあるコンテンツやプロジェクトを視聴、体験した結果、ブランドメッセージの伝達、ブランド好感度の向上、商品購買などが達成される、ブランディング・コミュニケーション手法です。
2001年にBMWが、ガイ・リッチー、トニー・スコット、アン・リーなど著名監督陣を起用し、15億円以上の制作費をかけて、BMW Filmsを製作、特設サイトで 公開し大きな話題になりました。メディア費用をかけずに、多くの観客にBMWブランドの価値をアクション・エンターテイメントフィルムを通じて、伝えることに成功したのです。 このプロジェクトを起点に広告業界ではブランデッドエンターテイメ ント手法で様々な挑戦が続いてきました。ドラマ、映画、ウェブムービー、ドキュメンタリー、音楽、イベントなど形は様々です。
全世界で500億円以上の興行収入を稼いだ、レゴ・ザ・ムービーは究極の成功事例の一つです。観客はお金を払って、レゴによるレゴのため の映画を見て、レゴがさらに好きになり、帰りにレゴを買っているかもしれません。企業が制作したウェブムービーがテレビドラマとして地上波で放映される。企業が制作した映画が、サンダンス映画祭に公式出品され Netflixで配信される。AppleがiPhoneだけで撮影した感動の短編動画をつくり、観客はそのコンテンツを楽しむと同時に、こんな映画が撮影できるiPhone って凄い!と共感させるのもエンターテイメントを活用したブランディングです。こうしたブランド制作の短編映画の中にはメディア費用を殆どかけず、数千万回以上の再生を獲得するようなプロジェクトもあります。テスラは自社のスポーツカーを乗せた、ロケットを宇宙に飛ばし、その模様をライブドキュメンタリーとして配信し、多くの視聴者にブランドの価値を伝えることに成功しました。
広告がエンターテイメント性をもったコンテンツとして、観客の貴重な時間をいただく。ここ数年の間に、世界にはこうしたブランデッドエンターテイメント の成功事例が数多く出てきています。エンターテイメントとブランドメッセージが掛け算になって観客を楽しませながら、同時にブランドの課題を解決することはできるのです。
ブランデッドエンターテイメントとは…
1,ブランドがプロデュースするエンターテイメント
2,飛ばしたくならないような広告
3,エンターテイメントを邪魔するのではなく、観客に求められるために作られたマーケティング
4,ブランドの金銭的投資・顧客の時間的投資の両面で投資対効果が高い広告
5,「見せる」ために時間を買うので はなく、顧客を魅了して「思わず見たくなる」広告
カンヌライオンズ審査員による世界で初めての書籍
私はカンヌライオンズのブランデッドエンターテイメント部門の審査員として、1000以上の世界中から集められた優れたプロジェクトを見て、体験し、そして各国から集まった広告・コンテンツ・コミュニケーションのプロ達とカンヌの暗い会議室で6日間、濃い議論をかわす機会をいただきました。
審査員15名の有志が、広告に携わる皆さんのためにその体験と学びを共有するために執筆したのが本書『ブランデッドエンターテイメント』です。カンヌの審査員が何を考え、何を議論して、何を評価したのか、そして過去の優れた受賞プロジェクトを制作したクリエイターたちへのヒアリングによる解説も含めて深い洞察が分かる、今のところ世界で唯一の書籍になっています。
Redbull Media Houseでドキュメンタリーを制作していたプロデューサー、ハリウッド、リドリー・スコットの製作会社RSAFilmsの社長、ガットタレントシリーズのフリーマントルのプロデューサー、ハリウッド芸能エージェントICMのブランデッドエンターテイメント責任者、メディアコムのスポーツマーケティング責任者、eSportsの世界の気鋭のエージェンシーのトップ、全世界的なクリエイティブエージェンシーのCCOやCEOまで、広告・コンテンツ・スポーツ・メディアのプロフェッショナル達がそれぞれの得意分野で様々なプロジェクトを探求、解説しています。
観客にとって無視したくない、絶対見たいと思えるような、エンタメプロジェクトをブランド主導で企画・制作し、ブランドの課題を解決する。本書では成功した世界中のプロジェクトの事例が紹介・解説されています。
例えばカンヌでグランプリをとったスペインの銀行のプロジェクトでは、銀行でありながら、あなたの記憶をいくらで銀行に売りますか?という大胆なテーマのSFドラマコンテンツを企画制作し、スペインの人気女優をキャストし、高いレベルのストーリーとクラフトで制作し、映画館で公開、動画配信サービスにも通常のエンターテイメントとして配信、視聴され続け、結果として銀行が目的としていた若者向け口座加入者数を大幅に増やしました。本書ではこのプロジェクトのクリエイティブディレクターがブランドと協業しどのようにしてこのプロジェクトを実現したのかの舞台裏の話をしっかりと聞き出すなど、世界の革新的なプロジェクトの解説からやそのプロジェクトの背景まで、この分野に対する知見が「広告の未来」のための参考書としてまとめられています。
様々な条件・制限を乗り越えて、とるべきリスクを取り、このブランデッドエンターテイメントという新しい手法へ挑戦し、マーケティング業界を革新してきた、世界中のプロフェッショナルの生の声と興味深いケーススタディが満載です。
また本書で取り上げられているケーススタディ・動画などを視聴できる特設ウェブサイトをご用意しています。優れたブランデッドエンターテイメントの事例を見て、そのプロジェクトの舞台裏や企画の意図、結果を確認しながら、本書をお読みいただくことで、圧倒的に理解が深まると思います。
ぜひ合わせてご覧いただき、活用いただければと思います。
鈴木 智也
CEO STORIES®合同会社 / STORIES® INTERNATIONAL,INC.
博報堂・博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所等を経て2011年博報堂DY・セガなどの出資で STORIES®を設立。STORIESは東京・LAに拠点を持つクリエイティブ・ブティック。米国を中心に20名以上のクリエイターが所属、SUBARU Your story withシリーズ、安室奈美恵MV、宇多田ヒカルMV・テレビ番組などブランデッドエンターテイメント、CM、MV、イベント等、数多くのプロジェクトをプロデュース。米国においても複数のハリウッド映画、テレビ番組を企画開発進行中。
早稲田大法学部・USC映画大学院プロデューサー学科卒業
2017年カンヌライオンズ・ブランデッドエンターテイメント部門審査員
2018年Spikes Asia審査員,「The Art of Branded Entertainment (共著 英Peter Owen出版)」
「ブランデッドエンターテイメント:お金を払ってでも見たい広告(共著・訳・監修、宣伝会議出版)」
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