世界の報道陣向けに公開されている「カンヌライオンズ 公式プレスブック」には、以下のような記載があります(カッコ部分は筆者による補足)。
「審査は視聴と投票、ディスカッション、各賞への決定で構成される。審査員はまず(自分に割り当てられた)エントリーを視聴し、それらに1~9点をつける。各自の採点を総合してショートリスト(一次選考入賞作)を確定させる。
その後、審査委員長の指示に従い、ショートリストの作品について議論してから、それぞれをゴールド、シルバー、ブロンズの入賞と見なすか、ショートリスト止まりと見なすか、投票する。金・銀・銅のトロフィー(ライオン)を獲得するには、多数決で3分の2以上の支持を集めなければならない。
投票後にゴールド受賞作の中からグランプリ候補を選定し、最終投票の前にも議論する。非営利団体や慈善団体からの応募はグランプリの対象にはならないが、『グランプリ・フォー・グッド』または『ヘルス部門グランプリ・フォー・グッド』の対象となる」
どの部門も基本的には上記のフローに従って審査が進められます(出品者のプレゼンテーションを直接聞いて審査を行うイノベーション部門など、一部例外もある)。
審査方針やクライテリア(審査基準)は、その年の各部門の審査委員長の意向が反映されます。審査委員長や審査員は「公平を期すため」、自分が直接担当者として関わっていない場合でも、出身企業のエントリーに関する投票やディスカッションに加わることはできません。出身企業以外であれば、自国のエントリーについて補足解説や応援コメントをすることはできます。
カンヌライオンズでは、審査員の幅も広がっています。現在も広告会社の出身者が多数を占めますが、ここ10年でみると、幅広い業界の人材が審査に携わるようになっています。“広告”の概念が拡大するにつれて、広告主やテック業界、音楽・映画などエンタテインメント業界、コンサルタントなどの出身者が加わっています。
社会的な観点からも公平性が重視されています。近年では、審査員長及び審査員チームは多様な人種のメンバーで構成され、男女の比率も可能な限りイーブンに近づけているようです。審査ポリシーの面で「人種とジェンダーの平等」を重んじている影響があります。
人種とジェンダーの平等は審査基準にもなっています。対象となるエントリーに「性別、民族、年齢、人種、性的指向、障害、体形などに関するバイアスが存在しないか?」「 偏見や不平等を助長する要素はないか?」を十分考慮しながら審査するよう、審査員は求められます。このルールは2017年に明文化されました。
こうしたことも影響したのか、以前は審査員同士の政治的な駆け引きや、特定の企業・人種間の連携が受賞リストに反映されているのではないかといった憶測がまれに流れることもありましたが、今は聞かれなくなりました。