今まで2回のレポートに引き続き、「誰にでも分かるLIONS Liveレポート③」をお届けします。広告コミュニケーションを実践的に学ぶには、“事例を研究する”のが、いちばんの近道です。実際のビジネスでプランニングする側としても、研究する人間としても。そしてその“事例研究”の宝箱のような場所が、カンヌライオンズだと私は思っています。
オンラインで開催されたLIONS Liveにおいては、この“データベースとしてのカンヌライオンズ”の魅力は、より増したとも言えます。今回はこの視点から、内容の幾つかをご紹介していきましょう。(※LIONS Liveは2020年6月22日~26日に配信されましたが、この原稿を執筆している2020年8月30日現在、登録さえすればオンデマンドで視聴可能です)。
【事例研究の宝箱としてのカンヌライオンズ】
多くの広告実務家の方には賛同していただけると思うのですが、広告コミュニケーションの企画力をつけるために基本となるのは、“事例研究”です。何か決まった教科書的なものに頼るのではなく、つねに変化するベストプラクティス(参考になる良い事例)から自分で学んで行く必要があるのです。
この事例研究にとっての“宝箱”のような存在が、カンヌライオンズです。その理由は2つあります。1つは、世界中に存在する数限りない事例の何が“ベストプラクティス”かを見極めるのは至難の業だということです。自分で探していたら探すだけで1年が終わってしまいます。カンヌライオンズでは世界から集められた優秀な実務家である審査員達が、多くの議論を通してベストプラクティスだと認めた事例“だけ”を、見ることができます。カンヌライオンズが持つキュレーション機能と言っても良いと思うのですが、これは相当に重要な機能です。
もう1つは、その事例が、応募用事例ビデオ(Case Film)と事例ボード(Case Board)として、短く手際よくまとめられていることです。自分が直接受け手となるわけでもない海外の事例の全体像を把握するのは、簡単なことではありません。ベストプラクティスがどの事例か分かったとしても、戦略がどう考えられて何が行われたかを把握するのは不可能に近い。それが、事例ビデオと事例ボードには、課題~戦略~実施~結果までコンパクトにまとめられています。事例研究にとってこんなに便利なものは、他には見当たりません。
【LIONS Live期間中は、20年分の受賞作が見られるThe Workが無料に。】
私は事例研究の宝箱としてのカンヌライオンズともう20年近く付き合っています。毎年のようにカンヌまで出かけて行き、その年々の話題作の背景や意味合いを探って来ました。そんなカンヌライオンズの約20年分の受賞作200,000件以上を見られるのが、The Workと名付けられたサイトです。年代別やグランプリや金賞などの賞別、あるいは業種別などで検索して見ることができて、また必要な事例ビデオなどをダウンロードすることもできます。事例研究を本格的に行いたい人にとって、これほど有益なサイトはないでしょう。
ただ、正直少しお高い。1年契約で15万円ほどかかります。私自身は昨年研究費の工面がなんとかついたので、今は見られる状態にありますが、多くの人にとってはなかなかに厳しいでしょう。このThe Workが、LIONS Liveの元々の期間中には無料で見られました。今はもう無料では見られないのですが、LIONS Liveはそんなチャンスも提供してくれていたのですね。
【事例研究の成果をメインにしたLIONS Liveのセミナーをご紹介】
さて、ここでは事例研究の成果をメインのテーマとしているセミナーを一つ、LIONS Liveからご紹介しましょう。LIONS Intelligenceが行った“a Guide to Creative Survival(クリエイティブによるサバイバルのガイド)”です。LIONS Intelligenceというのは、“カンヌライオンズが過去何十年もの受賞作から得られるデータと発想を提供する機能”と考えて良いと思います。ナビゲーター役は、カンヌライオンズ賞関連責任者のSusie Walkerさんです。
コロナ禍の不況をクリエイティブの力で乗り切るにはどうすれば良いかについて、過去の受賞作に学ぼうというのが、このセミナーのテーマでした。一つ一つの受賞作を深掘りするというよりは、幾つかの受賞作に共通する要素を取り出して傾向をまとめるという試みです。全体としては、LET’S GET BACK TO BRAND(ブランドに立ち返ろう)として、不況下では、パフォーマンス(機能的特徴)よりもブランドが重要だと訴えました。
特に、2008年のリーマンショックによる不況を主な題材とし、2007年と2010年の受賞作を比較して論を展開していました。ポイントは、(1)機能する感情と戦術(2)象徴的な作品(3)当該産業を浮揚させることの3つがあるとし、さらに(1)には、①ユーモアと楽しさの活用、②ブランド寄りのメッセージ、③コミュニティ感覚の重要視の3つがあると解説。①②③のそれぞれについて、2007年と2010年の受賞作における比率で、どの点についても2010年で増加していることを指摘しました。また具体的な受賞作も例示、例えば③であれば、2011年プロモ&アクティベーション部門とダイレクト部門のグランプリである『アメリカンROM(ルーマニアのチョコレート・バーROMによる)』を紹介していました。
このセミナーで何度か使われていた印象的なフレーズは、「それで、歴史は我々に何を教えてくれるでしょうか?(SO WHAT CAN HISTORY TELL US?)」です。過去の事例に学ぼうとするカンヌライオンズの姿勢が、この一言に集約されていますね。
※さて、LIONS Liveの具体的な内容について、今度は別のテーマで、あと1回報告しようと思っています。お楽しみに!