2023.4.11 share

Q1審査を通して得た気づき

この時期の審査は、アジアリージョンの中でもカンヌライオンズで受賞済みの2022年の作品と、アワードデビューにあたる新しいアイデアが混在しているため、ある意味ユニークで、そのしのぎ合いにダイナミズムを感じました。だからこそ、我らが審査員長Grahamはあえて「その作品が仮に前に他の国際アワードを受賞したからといって、絶対にフリーパスにはしないという信念を持とう」というシンプルなブリーフを授けてくれたのだと思います。個人的にダイレクト/アウトドアの両部門に感じたのは、ウィットの復権。”FUNNY is MONEY”と言われる通り、面白さが鮮やかに経済圏を拡大するものへの回帰が見られました。アフターコロナを象徴するFUN&POSITIVEなトンマナが、どのくらい今年は落ち着いて変容するかを注視しようとしていましたが、質としては、もう少し鋭利な面白さでした。ただ、特にダイレクトは「ターゲットを絞ったレスポンス重視のクリエイティビティを評価する」部門なので、必然的にテックが絡んでくるのですが、昨年のトレンドワードだった「メタバース」「NFT」に関しては、それらが本当の意味で課題解決力の向上に有機的に寄与した、と言える作品は多くなく「BEST USE」と呼べるものが少なかったのは、残念でした。来年はChatGPTを用いた施策が溢れかえるとすれば、そのテックを使う“必然性”によって審査員が「やられた」と嫉妬し、説得されることを願っています。

Q2審査の中で印象に残った施策



①REJECTED ALES

個人的に一番嫉妬した作品。オーストラリアのビールブランドMatilda Bayは、厳しい目を持った醸造長が世に出すことを許可したオリジナルエール、その製作過程でボツにした27のビールを缶に詰め販売。無骨なシルバーのパッケージには、その却下理由が赤字で書いてあり、飲み比べることでブランドストーリーを追体験できる。美味しさを語らず、過程をエンターテインメントとして開示する、ボールドさ。最終到達したプロダクト自体に自信があれば、それまでの工数を見せると、説得力のある訴求になる。同じく審査員たちのお気に入りのThe Killer Packと同様に、総合点の高い、隙のないアイデア。



②FLIPVERTISING

カテゴリーでは象徴的な作品。Galaxy Z Flip4をプロモーションするSAMSUNGは “ターゲティングされる”ことを最も忌避するZ世代が、むしろ「されたい」と歴史上初めて思ったと言っても過言ではない、アルゴリズムゲームを考案。インセンティブはあるものの、人々が実際にコンテンツを提供されることを望み、広告を見るために積極的に検索するという新しさ。言うは易く、これを実装までやり遂げたチームの胆力が凄まじい。



③PHONE IT IN

ニュージーランドの携帯会社Skinnyの施策。街ゆく人々が携帯電話で、自身の声でSkinnyのラジオ広告を無料で録音できるようにした低コストキャンペーン。すべての広告には、その場所に関連した文脈とウィットが含まれ、そこで録音された音声は、実際にラジオ広告として配信された。超ローテクな仕組みで、アイデアの強度のみでプレイスメントを越えた価値と体験を生み出している。潤沢な予算がないからできない、テックにリソースが割けないからできない、とアワードに疲弊し、嘆く後進が「これならできるかも」と焚き付けられるような解き方に、背筋が伸びる。