カンヌライオンズの姉妹イベントでMENA地域のクリエイティビティを表彰するドバイ・リンクス・インターナショナル・フェスティバル・オブ・クリエイティビティ(ドバイ・リンクス)PR部門の審査員を務めた電通PRコンサルティング 香田有希さんに、本年のドバイ・リンクスの審査からの気づき、注目作品を教えてもらった。
審査を通して得た気付き
平均年齢の若いこの地域ではデジタルアクティベーションが大前提でしたが、ファクトベースで情報拡散し行動を促すシンプルなPRを実践した事例と、メタバースやAIの活用、宇宙との交信など2023年らしい新規性で社会の注目を集めた事例が混在していたのが印象的でした。中には、日本では法的にできないような奇をてらった作品もありましたが、審査において「成果が無いものは授賞に値せず」という明確な方針をベースに、一方で純粋なPR業のみならず、映像や音楽などの創作活動を経験してきた審査員メンバーの視点により、多彩な議論が経験できました。結果的に今年は後者に分類される事例がショートリストに残りませんでしたが、来年以降、より練られた事例が出てくるのか、一過性の流行で終わるのか、継続して見ていきたいところです。
また、対象となるMENA地域で解決しなければならない課題の複雑さと深刻さも目の当たりにしました。そんな課題に対して、PRの力で立ち向かおうとする気概が見える素晴らしいプロジェクトも多く見られて嬉しかったです。
審査の中で印象に残った作品
①Empty Plates
PRゴールド受賞事例。UAEの飢餓支援寄付キャンペーンの認知拡大・理解促進策。ラマダン期のチャリティーオークションで出品され、寄付の一部となる車のナンバープレートのオークションに着目し巻き込んだところが妙味な事例です。断食月のラマダン中に飢餓について考える、という元々のキャンペーンの着想が良い所に、食事の載っていない空の皿と掛け合わせて、空欄(empty)のナンバープレートを付けた車を複数台街中で走らせることで話題化を図り、飢餓とキャンペーンへの市民の関心を高める奇策と、過去最大の成果につながったと言う結果がダイナミックな施策です。
②Newspapers Inside The Newspaper
今年はPRでシルバーを受賞しましたが、このレバノンの新聞社は、2020年以来毎年いずれかのカテゴリーで受賞し、昨年はPRグランプリを受賞した常連です。長年、表現の自由が制限されてきたことに声を上げた勇気(それも前編集長の暗殺日に)と、一媒体の施策でありながら垣根を越えて幅広くジャーナリストに取り上げられたことにレバノンの明るい未来を願わずにはいられません。
③Time to Read
中東最大規模を誇る紀伊国屋書店の読書促進キャンペーンです。読書をしない理由の調査やスマートフォンのスクリーンタイムの分析からソーシャルメディアに費やしている時間と、その時間でどれだけの本が読めるかを可視化し、拡散させたところにPRの基本のキを感じた作品です。実際の購入シーンにも調査結果を活用していて、隙のない戦略と戦術が良かったです。